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第317話

弥生は耳に残るビジートーンを聞きながら、心が刺されるような痛みを覚えた。

一瞬「もういい、宮崎家には戻らず、何も持ち出さずに終わりにしてしまおう」と思ったが、どうしても取り戻さなければならない私物がいくつか残っていることを思い出し、やはり瑛介がいない時間を見計らって取りに行くことを決めた。

朝食を終えた後、弥生はその計画を由奈に打ち明けた。

「昨晚言ったでしょ?車の準備はもうできてるし、友達にも手伝いを頼んだの。あとはあなたがしっかり荷物をまとめてくれるだけでいいのよ、心配しないで」

思いがけず、由奈がここまで準備してくれていることに驚き、弥生は「よかった、ありがとうね」と感謝を伝えた。

「お礼なんていらないわよ」

「だって、手伝ってもらわなくてもいいよ。荷物は少ないし、一人で行っても大丈夫」

そう言うと、由奈は手を止めて強く言った。「一人?そんなのはだめよ、もし何かあったらどうするの?」

「何が起こるって言うのよ?いくらなんでも長年住んできた場所だから。それに、うちの家と宮崎家は昔からの付き合いだし、心配することなんてないわ」

彼女の言葉に、由奈もようやく、宮崎家が表向き立派な家であることを思い出し、少し気を落ち着けた。

「本当に私、ついて行かなくて大丈夫?」

「本当に大丈夫よ。ちょっとした荷物を取りに行くだけだし、まずは病院に寄ってから宮崎家に行って、すぐ戻るつもりだから」

「そう......じゃあ気をつけてね。昨日みたいに体調崩さないようにして」

昨日のことを思い出し、弥生の目が少し曇ったが、微笑んで言葉を返さなかった。

弥生は病院に向かった。昨日は来られなかったため、おばあさんは彼女を見るなり「昨日はどこに行っていたのかい?」と尋ねた。

弥生は嘘をつきたくなかったので、笑顔で「ごめんなさい、昨日は大事なことがあって、こちらに来られなかったんです」と答えた。

おばあさんはよく理解してくれる人だった。「大事なこと」と聞いて、それ以上は尋ねず、若者にはそれぞれの秘密があるものと察して、彼女の手を取りながら「今日はどんなお話を聞かせてくれるのかね?」と微笑んだ。

弥生は柔らかく微笑み返し、「今日はどんなお話が聞きたいですか?」と尋ねた。

「では、今日は家族にまつわる話を聞かせてくれないかね?」

その言葉を聞いて、弥生の心がドキド
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